ヒトが生きていくうえで、自分の命を守り支えてくれる存在との繋がりは必須です。ヒトは、同種のヒトだけではなく、動物や植物などの生き物、他の存在と繋がることを求める生き物です。山や川や海などの自然環境、石や土、物体の配列・文字や模様、触れることの出来ない太陽や月や星にまでも、繋がりを見出します。
また動物には、危険を察知し回避する仕組みが備わっています。不意の傷つきは瞬時に記憶され、それ以後、危険に対して反射的に身体の反応が生じるようになります。ヒトは、人間関係についての感覚や情報、例えば言葉、声のトーン、表情、他人の仕草、匂い、人が並んでいる様子や動き、などに対して危険を察知し反応することができます。複雑な人間関係を渡り歩くために必要な能力です。
一方で、安全な相手だと頭では理解していても、関わりを拒絶し信頼できる存在を失う悪循環に陥る場合があります。傷ついた体験を呼び覚ます刺激は、周囲からすれば大したものではなくても、当事者にとり恐ろしく、予期しづらく、コントロールできない状態を生み出すものです。たとえ空が美しくても、銃弾がどこからともなく襲ってくると感じる人には、空はこころ落ち着く景色、とはならないでしょう。傷の疼きに圧倒されパニック状態になったり、保護回路が働いて感覚や思考が麻痺するなどの反応が、助けや癒しから遠ざけ、かえって傷を深める結果になる場合があります。 恐怖を感じてその場から逃げたり、激しい情緒をぶつけたり拒絶することにより、孤立してしまい、さらに傷つくという悪循環が、トラウマを抱えている人には生じやすいようです。
トラウマを抱えたヒトは、繋がりのなかで支えられ、自分自身のこころとからだの手綱を手放さず、自分も相手も傷つかないような道を模索しながら、困難に耐え乗り越えようとする中で、次第に傷が癒えてくるようです。そして癒やしのプロセスは、成長する足掛かりとなります。トラウマを扱う専門家・治療者は、こういった状況でのガイドやペースメーカーの役割を担います。
トラウマを抱えるヒトは、「期待をかける対象」からの「裏切り」や「傷つき」に敏感な状態であると考えられます。治療の専門家は、期待をかける対象ですので、細心の注意を払っていても、傷つける危険性が高い存在と言えます。
安全性を確保する方法として、治療者との間に何か介在させることで、三角形の関係の構図を作る、という方法があります。心理療法では、絵を描いたり、コラージュを作ったり、箱庭を使ったり、など様々なアプローチが開発されていますが、動物や植物を介在させる方法もあります。
私たちは、植物が、人間に安全や安心を保証するような空間・時間的環境を提供してくれる存在として、また、人間の営みを許容する深みや豊かさを持つ存在として、自らも救われる経験をしてきました。
私たちは園芸療法・植物介在療法の専門家として活動しているわけではありませんが、彼らのアプローチを目の当たりにして、私たちもその取り組みを実践していきたい、と考え、自分たちの事業の軸に据えることにしました。